高給に惹かれて、ゴミ屋敷の特殊清掃の世界に飛び込みました。求人広告には「未経験でも月給30万円以上、頑張り次第で50万円も可能」と書いてあり、当時の私には夢のような話でした。確かに、給料は良かった。繁忙期には、手取りで50万円を超える月もありました。でも、私は二年でその仕事を辞めました。どんなにお金を積まれても、削り取られていく「何か」に、耐えられなくなったからです。現場は、想像を絶する世界でした。夏場、防護服と防毒マスクを装着してドアを開けると、熱気と共に襲ってくるのは、生ゴミと汚物が混じり合った強烈な腐敗臭。床にはウジが湧き、壁には黒カビがびっしりと生えている。そんな中で、黙々とゴミを袋に詰めていくのです。肉体的にもきついですが、それ以上に精神的にこたえました。部屋に残されたアルバムや、子どもが書いたであろう絵を見るたび、「ここにも、かつては幸せな暮らしがあったはずなのに」と、胸が締め付けられるのです。人の人生の最も暗い部分を、毎日のように覗き見しているような感覚。高い給料は、この精神的なダメージに対する「痛み止め」のようなものだったのかもしれません。それでも、この仕事には、お金では決して得られない、強烈なやりがいがありました。それは、全ての作業を終え、依頼主の方に部屋を引き渡す瞬間です。ある高齢の女性は、綺麗になった部屋を見て、ただ静かに涙を流しながら「ありがとう。これで、もう一度人間らしい生活ができます」と私の手を握ってくれました。その言葉と、手の温もり。それだけで、全ての苦労が報われた気がしました。人の再生の瞬間に立ち会えること。それが、この仕事の唯一無二の価値でした。でも、私は他人の人生を救う前に、自分の心が壊れていくのを感じてしまった。だから、辞めたのです。今でも、あの給料は魅力的だと思います。でも、私には、その対価として支払うには、あまりにも大きなものがあったのです。
月給50万でも辞めた元清掃員が語るゴミ屋敷の現場