ゴミ屋敷問題は、しばしば住人の「だらしなさ」や「自己責任」として語られがちです。しかし、その根底には、個人の努力だけではどうにもならない、深刻な社会構造の問題が横たわっています。特に、低い給料で働くワーキングプア層にとって、ゴミ屋敷は決して他人事ではなく、すぐ隣にある落とし穴なのです。長時間労働と低賃金は、人から時間的、精神的、そして経済的な余裕を容赦なく奪い去ります。朝早くから夜遅くまで働き詰め、休日は疲労困憊で寝て過ごすだけ。そんな生活の中で、煩雑なゴミの分別や、決まった曜日の朝にゴミを出すという行為は、非常に高いハードルとなります。気力と体力が尽き果て、部屋を片付けるという、本来なら当たり前の生活行為さえも維持できなくなってしまうのです。経済的な困窮も、ゴミ屋敷化に直結します。自治体指定のゴミ袋は有料であり、その数十円、数百円の出費さえためらわれる。テレビや家具などの粗大ゴミを処分するには、数千円の手数料がかかります。そのお金があれば、数日分の食費に充てたい。そう考えるうちに、部屋の中には処分できないモノがどんどん溜まっていきます。このような状況が続くと、やがて人はセルフネグレクト(自己放任)の状態に陥ります。劣悪な環境にいることに慣れ、自分自身の健康や安全に関心を持てなくなってしまうのです。これは、生きる意欲そのものの低下であり、社会からの孤立の始まりです。低い給料は、単に生活を苦しくさせるだけではありません。それは、人の尊厳を少しずつ削り取り、健全な生活を営む気力さえも奪い、結果としてゴミ屋敷という名の絶望的な空間を生み出してしまう。この問題を解決するためには、個人の意識改革だけでなく、誰もが人間らしい生活を送れる賃金体系や、困窮した人々を早期に支援する社会的なセーフティネットの構築が不可欠なのです。